二つのモンゴロイド
モンゴロイドの二地域性
東アジア地域の人々の大多数は身体的特徴からモンゴロイドと呼ばれている。18世紀にドイツの人類学者ブルーメンバッハは世界に住む人類集団を皮膚の色から5変異に分類することを提唱し,これが今日の教科書における「白色人種」,「黄色人種」,「黒色人種」などの表記の基本となっている。当時のヨーロッパにおいて,ジンギス・ハーンやクビライ・ハーンによる蒙古軍の軍事力が広く認識されたからであろうといわれている。モンゴロイドと呼ばれる人たちの分布範囲は他の人類集団と比較してもきわめて広く,環境条件も多様である。モンゴロイド集団は明らかにその起源や成り立ちから北方モンゴロイドと南方モンゴロイドに大別される。遺伝的に分けてみると北方モンゴロイド,南方モンゴロイド,オーストラロイド,およびアメリカ・インディアンの4つの系統群に分かれてくる。
TATS値とは
歯の大きさを集団で比較する場合,どの歯で大きさを代表するか大変難しい問題である。そこで上下顎 中切歯から上下顎第2大臼歯まで14歯の歯冠近遠心径の平均値を総和した値を代表値(TATS:Total Average of Tooth Size)として計算し,その値で各人類集団の比較を試みた。歯の大きさは男性の方 が女性よりも一般に大きいため,データは男性の資料について計算したものを用いた。
歯の大きさからみた東アジアの集団分布
図はTATS値について東南アジアの集団の分布を示したものである。歯の大きさからみると,歯の大型の群と小型の群、および両者の中間の群が存在していることがわかる。大型の群はオーストラリア、ニューギニアおよび太平洋の島嶼部の住民であり、小型の歯を示すのは東南アジアの住民や縄文人である。中間の大きさの群は日本、韓国やイヌイットの集団である。
フィリピンの先住民は歯が小さく,その周辺の集団も比較的小さい歯をしている。フィリピン,ベトナム,タイあたりの集団や台湾先住民が基盤になったのではなかろうか。彼らは共通して歯のTATS値が小さくなっている。台湾先住民が111mm,フィリピン人が114mm,タイ人は110mmと小型の歯をしている。ネグリトも一様に歯は小さい。台湾先住民はいくつかのグループに分かれ、中には歯の大きいグループもあるが、基盤としては歯の小さい集団であったと思われる。
これらの地域から南方へ向かうと歯は次第に大きくなり,中程度から大型の歯に変わっていく。ニューギニア高地人やオーストラリア先住民の歯は120mm以上と大きくなっている。南太平洋島嶼部の人々も大きな歯を持ち、とくにサモア、パラウ、フィジーは最大の大きさを示している。
また,北方へ向かうグループも歯は次第に大きくなり,日本人やイヌイットも中程度の歯の大きさを示している。日本人の中では弥生人が117mm,現代日本人が116mmの大きさである。縄文人が110mmと歯の大きさにはっきりした違いがみられ、やはり南方モンゴロイドに由来するグループと思われる所以でもある。中国型歯列に属する中国人やモンゴル人の歯が小さいのが気になる。