―歯科人類学のススメ―

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現代人の歯の大きさ

 現代人の歯

 下図は現代人における歯の大きさの変化を出身地と出生年別に比較してみた結果である。資料は1941年から1949年生まれと1956年から1967年生まれの男性を対象に各地域で調査した鈴木尚英の結果を筆者がアレンジしたものである。TATS値でみると北海道では前者の117oから後者の118o,東北では116oから119o,関東・中部では117oから118o,近畿以西では118oから119oへと変化がみられ,東北地方が最も変化が大きい。
 一方,歯の形態変化をみると弥生時代以降から現代まではほとんど変化をしていない。このように30年間という短い間であるが,2つの時期に歯の大きさに大きな変化があらわれた背景をみると,1941年から1949年の9年間は第2次世界大戦を経験しており,1956年から1967年の12年間は戦後に経済が回復し,消費経済が繁栄した時代でもある。そのため,食生活が急激に改善され,高栄養,高タンパク質の食べ物を摂る機会が多くなった時期でもある。おそらく食生活の変化がこのような差を生み出したのではないであろうか。

現代人の歯の大きさ
    上図は鈴木尚英(1993)を著者が改変

 歯の大きさの世代差

 歯の大きさについて世代間に差があるかどうかを比較した。データは井上直彦らから借用した。これらのデータは第T世代(1924年〜1926年生まれ),第U世代(1934年〜1936年生まれ),第V世代(1944年〜1946年生まれ),第W世代(1954年〜1956年生まれ),第X世代(1964年〜1966年生まれ)の値であり、地域別に集めたものである。これらからTATS値を算出してみた。

 下図の資料は名古屋地区で収集された男性のデータである。第T世代から第V世代まで歯の大きさは減少傾向にあるが,第W世代から第X世代にいたるまでは逆に歯の大きさは増加している。この傾向は名古屋地区だけに限らず,調査したどの地区にも認められる。第V世代の時期は第二次世界大戦の敗戦の前後に生まれた時期である。このような時代に生まれた人たちの歯は大きさが小さくなっていることがこの研究で実証された。


    上図は井上直彦ら(1983)を著者が改変。

 どこの歯種が大きくなっているかを調査してみると,世代が若くなるすなわち第X世代ほど上下顎中切歯から第2小臼歯まで歯冠近遠心径が増大している。また天野有希らが1959年、1969年、1979年ごとの10年間隔で生まれた人を調べた結果でも,最近に生まれた人ほど歯の大きさが増加する傾向があるという。歯の大きさの増加傾向は各世代における母体内での栄養摂取状態をはじめとする環境因子と何らかの関連が有るであろうと推測している。