初期人類から現代人までの進化史(1)
ここに出演する俳優たちは今までに人類進化の舞台に登場してきた化石人類である。時代の古い順から解説したいと思う。下図は現生のチンパンジーである。
サンブルピテクス
(Samburupithecus kiptalami)
アフリカのケニアでは950万年前の地層から日本人の学者チームにより大型ヒト上科の化石が1982年に発見されている。サイズが大きいこと(ゴリラのメスくらい)、真直ぐな頬歯列(U字形)、エナメル質が厚いこと、第3大臼歯が最大であることなどの特徴を示す。この化石はアフリカ類人猿とヒト科の分岐部にあるとして、1)アフリカ類人猿とヒトが別れる前、2)分岐した後のアフリカ類人猿側、3)分岐後のヒト科側、の3つの可能性がある化石である。
サヘラントロプス・チャデンシス
(Saheianthropus tchadensis)
アフリカ東部を南北に貫く大地溝帯から2500kmも西方に位置する西アフリカのチャドで発見された化石はサヘラントロプス・チャデンシスと呼ばれ、ニックネームは“トゥーマイ(「生命の希望」の意味)”と言われている。ほぼ完全な頭蓋が発見されているが、四肢骨は発見されていない。脳容量はかなり小さく350ccくらいで、チンパンジー並みである。年代的には700万〜600万年前の化石であり、二足歩行していたかどうかは明らかでない。脳容量が小さく、眼窩上隆起がよく発達し、犬歯は上下顎とも小さく、尖頭が磨り減っており、犬歯歯隙がないという初期人類の特徴を示している。この種はチンパンジーと人類の共通祖先に続く特徴を備え、類人猿段階を超えた種とみなされている。当時の人類がアフリカ東部のほかでも幅広く生きていた可能性を示している。しかし、ヒト科を疑う学者もいる。
オローリン・ツゲネンシス
(Orrorin tugenesis)
その後に続く古い化石にオローリン・ツゲネンシスがある。この化石は2001年に西ケニアのおよそ600万年前の堆積物から発見されている。「ミレニアム・マン」または「ミレニアム・アンセスター」と呼ばれる。上肢は“ルーシー”よりは1.5倍長く、チンパンジーのメスとほぼ同じ大きさである。大腿骨が発見されており、オローリンは二足歩行と木登りに適応した人類の祖先であるといわれている。オローリンの上顎犬歯はメスのチンパンジーに似ている。犬歯の小型化・菱形化はオローリンよりも後に進化したと報告されている。小臼歯や大臼歯のエナメル質は厚いことから、この化石こそ人類の祖先で、アウストラロピテクス類は絶滅した支流であると発見者は提案している。しかし、他の科学者は今のところこれに対して懐疑的である。
アルディピテクス・カダバ
(Ardipithecus kadabba)
エチオピアのミドル・アワッシュ高原で発見された中新世後期の化石人類アルディピテクス・カダバ(「家族のおおもとの祖先」の意味)は580万〜520万年前の地層から発見されている。残念なことに頭蓋はみつかっていない。中新世後期の2つの化石人類(サヘラントロプスやオローリン)の歯と比べてみると、この化石と非常に良く似ている。犬歯や足の指の骨などが見つかっており、二足歩行の可能性を示唆している。大臼歯のエナメル質はうすい。下顎小臼歯には磨がれたあとが残っていた可能性があり、この特徴からこの化石人類は人類がチンパンジーとの共通祖先から枝分かれして間もない段階にあったと思われる。
アルディピテクス・ラミダス
(Ardipithecus ramidus)
アルディピテクス・ラミダスはエチオピアの今から580万〜440万年前の地層から発見された化石である。二足歩行をしていたと考えられ、身長は122cmと推定されている。歯はアウストラロピテクス・アファレンシスと類人猿の中間を示し、初期人類よりもチンパンジーに近い乳歯を持っている。一緒に見つかった動物化石から、初期人類が生きていた環境が、開けた草原ではなく、むしろ森林のような場所だった可能性が分かった。
アウストラロピテクス・アナメンシス
(Australopithecus anamensis)
1995年、ミーヴ・リーキーとアラン・ウォーカーらはアウストラロピテクス・アナメンシス(アナム猿人)の化石をケニアの420万〜390万年前の地層からKanapoi(390万年前)で9個体、Allia Bay(420万年前)で12個体を発見している。この個体は原始的な頭蓋骨と進歩的な骨格を合わせ持ち、歯と顎骨は化石類人猿と似ている。脛骨の形から二足歩行をしていた可能性が高い。北エチオピア地域から発見されたこの化石は大きな犬歯をもち、アウストラロピテクス属では最古の大腿骨を持っている。脛骨が非常に大きいことから、小さな脛骨をもつA. afarensisの直系の祖先とは考えない学者もいる。体重は46kgから55kgと推定されている。この種は森林に生息していたことがうかがえる。Ar.ラミダスとA.アファレンシスの中間にある解剖学的特徴から、アフリカのこの場所で急速にアルディピテクスからアウストラロピテクスへ移行していたと考えられている。
アウストラロピテクス・アファレンシス
(Australopithecus afarensis)
1978年にドナルド・ジョハンソンらによってエチオピアの390万〜300万年前の地層からアウストラロピテクス・アファレンシスが発見されている。脳容量は375cc〜550ccと類人猿なみで、歯以外の頭骨はチンパンジーに類似している。 “ルーシー”と呼ばれている女性化石の身長は1mあまりである。犬歯は現生の類人猿よりもかなり小さいが、尖頭はとがっている。臼歯はかなり大きい。歯列の形は類人猿のU字形と現代人の放物線形の中間にある。骨盤の形から彼らは二足歩行をしていたと思われる。タンザニアのラエトリ遺跡では375万年前に降り積もった火山灰地を直立して二足で歩いた足跡が残されている。走るよりは歩くのに適応していたようだ。推定身長はオス/メスで151/105cm、体重は45/29kgとかなり性的二型が大きい。性的二型が大きすぎることから、複数種含まれている可能性も示唆されている。上顎犬歯の性的二型はむしろ現代人並みに小さい。頬歯が多きいことからA.アナメンシスからA.アファレンシスへ進化が進んでいったと思われる。初期のAr. ラミダスよりは強靭な咀嚼を要する食べ物に適応していることが分かる。
アウストラロピテクス・バーレルガザリ
(Australopithecus bahrelghazali)
350万〜300万年前の下顎の化石が西アフリカのチャドから発掘されている。小臼歯の歯根から頑丈型猿人に似るという。アフリカのリフト・バレーの西方、2500kmの地域に350万〜300万年前の化石がもうすでに分布していたとして世界を驚かせている。
ケニアントロプス・プラティオプス
(Kenyanthropus platyops)
ケニアのトルカナ湖西岸から350万年前のケニアントロプス・プラティオプス(「平べったい顔のヒト」の意味)が発見されている。この化石は顔が大きくて平べったく、大臼歯が小さいという特徴をもつ。驚くべきことに、後の時代のA. ルドルフェンシスと多くの形質を共有している。頭蓋はA.アファレンシスやA.アフリカヌスに似ているが、A.アファレンシスと違った特徴をもつことから、新たな論議が生まれている。
アウストラロピテクス・アフリカヌス
(Australopithecus africanus)
南アフリカで発見されたアウストラロピテクス・アフリカヌス(「南方のサル」の意味)は300万〜200万年前に生存していた化石人類で華奢型猿人(A型猿人)と呼ばれている。大後頭孔の位置もA. アファレンシスと類似し、頭蓋低のまん中近くまできていて、二足歩行をしていたことを示している。脳容量は420cc〜500ccである。チンパンジーの脳容量よりもわずかに大きい。言語領域はまだ発達していない。性差は小さく、犬歯の縮小と臼歯の拡大がある。臼歯はアファレンシスよりはわずかに大きい。顎や歯はヒトよりもかなり大きいが、類人猿よりもヒトの歯にかなり似ている。顎の形は完全に放物線形でヒトに似ている。犬歯の大きさはA.アファレンシスに比べてかなり縮小している。
アウストラロピテクス・ガルヒ
(Australopithecus garhi)
エチオピアの250万年前の地層から発見された人類化石がアウストラロピテクス・ガルヒである。はじめて石器を使った可能性がある人類として知られている。骨格はヒトと類人猿の両者の特徴を合わせ持っている。脳の大きさは450ccと小さい。この化石はA. アファレンシスとH. ハビリスを繋ぐものとされたが、A. ガルヒの臼歯は極めて大きく、頑丈型猿人(P型猿人)のレベルに達しており、これがヒトの直系の祖先だとは考えにくい。頭骨は原始性が強いことから、これまでのアウストラロピエクス類と違っている。
以上は二種類あるアウストラロピテクス類のうち、“華奢型”のアウストラロピテクス類である。 これから述べるのはもう一つの“頑丈型”のアウストラロピテクス類である。
アウストラロピテクス・アエティオピテクス
(Australopithecus aethiopithecus)
アウストラロピテクス・アエティオピテクスは東アフリカの260万〜230万年前の地層から発見された化石である。この個体は大きな頬歯をもち、A. ロブストゥスやA. ボイセイの祖先と考えられている。原始的な形質と進歩的な形質を併せ持ち、脳容量は410ccである。
アウストラロピテクス・ロブストゥス
(Australopithecus robustus)
南アフリカで発見されている。アウストラロピテクス・ロブストゥスはA. アフリカヌスと似た体躯をしているが、頭骨や歯はかなり頑丈にできている。200万〜150万年前に生活していた。前歯(切歯・犬歯)は小さいが、臼歯は大きい。頭骨にはよく発達した矢状隆起を持っている。平均した脳容量は530ccである。掘る道具が伴出されている。性的二型は中等度。
アウストラロピテクス・ボイセイ
(Australopithecus boiseis)
かつてはジンジャントロプス・ボイセイと呼ばれていた。アウストラロピテクス・ボイセイは210万〜110万年前に東アフリカで生活していた人類である。A. ロブストゥスと似ているが、切・犬歯は縮小し、臼歯は巨大である。大臼歯は長さ2cmにおよんでいる。脳容量はA.ロブストゥスに非常に良く似ており、ほぼ530ccである。A.ロブストゥスとA.ボイセイは同じ種の中の変異と考える学者もいる。性的二型はかなり強い。
アウストラロピエクス属のエチオピテクス、ロブストゥス、ボイセイは“頑丈型”のアウストラロピテクスとして知られている。何故なら、彼らの頭骨は極めて頑丈にできているからである。ヒトの直接の祖先とはみなされていない。多くの学者はこれら3種をパラントロプス属(Paranthropus)にいれている。