―歯科人類学のススメ―

TEL:(052) 794-1172

ゴリラの犬歯形態

 霊長類の犬歯は牙状の形態をしていることから食肉類と良く似ています。このことは霊長類の犬歯が武器もしくは威嚇の機能をもつことをあらわしています。食肉類であるライオンの歯は肉を切り裂く機能を発達させ,上顎第4小臼歯と下顎第1大臼歯が裂肉歯として肉を引き裂きやすいように特殊化しています。一方、サルのような霊長類は葉,果実,樹皮,昆虫などを食し、雑食性の食物を食べていますが、犬歯はよく発達した形態をしています。臼歯には食肉類のような裂肉歯としての構造は見られません。
 現生大型類人猿の中でゴリラ(Gorilla gorilla)のオスの体重は150〜180kg,メスは80〜100kgをしています。アフリカ大陸にのみ生息し、低地では主として果実,葉,昆虫を食べていますが,高地では葉,樹皮,髄,根,草本などを大量に食べています。行動は昼行性で,採食するとき以外は地上にいることが多く、平均10頭前後で単雄複雌群をつくっています。

上顎犬歯

 オスの犬歯の歯冠概形は尖頭が高く,遠心に傾斜した底辺の広い二等辺三角形をしています。近心切縁はやゝ凸湾し,遠心切縁は直線的かやゝ凹湾し、近心shoulderは歯頸側1/5に,遠心shoulderは近心のそれより歯頸寄りにあります。近心切縁溝は尖頭付近から近心辺縁隆線の手前まで流れ、近心舌側面隆線は太くて丸く膨隆し,尖頭から近心基底部までやゝ近心寄りに走行した後,歯頸隆線の手前で終わります。歯冠中央やゝ遠心を垂直に流れる中心溝は深く,歯頸隆線を二分して歯根まで延びています。中心溝の遠心には皿状に浅く窪んだ広い遠心舌側面窩があり,舌側面窩全体の約3/7を占め、歯頸隆線は発達が軽度で幅が細く(約2o),歯頸部全体を取り巻いています。
 メスの犬歯はオスよりもかなり大きさが小さくなっています。歯冠概形は正三角形をし、近心shoulderは歯頸側1/3にあり,遠心shoulderはそれより歯頸寄りにあります。近心切縁溝は中程度に深く,尖頭付近から近心辺縁隆線の手前まで流れ、近心舌側隆線は太く膨隆する発達の良い隆線で,尖頭から近心へ湾曲しながら走行し,基底部に近づくにつれフレア状に広がり,歯頸隆線の手前の浅い溝に終わっています。中心溝は中程度に深く,近心舌側隆線に沿って流れ,歯頸隆線の手前で終わり、遠心舌側面窩は全体に浅く,舌側面窩全体の約3/5を占めています。歯頸隆線は中程度の膨隆と幅(約3o)をもち,歯冠中央部で歯根側へ張り出しながら,歯頸部全体を帯状に取り囲んでいます。

  

  

  

下顎犬歯

 オスの概形は尖頭が高い不正四辺形をしています。近心切縁は直線的,遠心縁は凹湾し、近心shoulderは歯頸約1/3に,遠心shoulderはそれよりもかなり歯頸寄りにあります。近心切縁隆線は稜線が鋭角的でよく発達し、深い近心切縁溝をもちます。近心切縁溝の一部は近心辺縁隆線と歯頸隆線の境にあるV字状の強い切痕から歯根へ流れでています。近心舌側面窩は広く,舌側面窩全体の3/4を占めています。遠心舌側面隆線は太くて稜線が鋭角的で,尖頭から基底部遠心へ向かって直線的に走り,歯頸隆線の手前の浅い溝に終わっています。遠心舌側溝はかなり深く、この溝は歯冠中央から下降し,歯頸隆線を深く分断した後,歯根に至ります。遠心舌側隆線の遠心壁から遠心切縁隆線までの領域は上顎犬歯と噛み合うため強く窪んでいます。歯頸部の隆線は幅広(4〜5o)で強く膨隆し,基底部全体を取り巻いている。
 メスの犬歯はオスよりもかなり小さく、舌側面の歯冠概形は尖頭が低い不正四辺形をしています。近心shoulderは歯頸3/5,遠心shoulderは近心のそれよりもかなり歯頸寄りに位置しています。遠心shoulder周辺はよく膨隆し,遠心舌側結節も発達が良く、近心切縁溝は浅く,近心の切縁隆線と辺縁隆線はオスよりも鋭角的に交わっています。近心舌側面窩はやゝ陥凹し,舌側面窩全体の約3/5を占めています。遠心舌側面隆線は中程度に太く,歯冠中央部からフレア状に広がりながら遠心舌側部へ下降しています。遠心舌側溝は中程度に深く,歯冠中央から歯頸隆線の手前まで流れ、歯頸隆線は膨隆が強度で幅が広く(約4o),舌側面基底部全体を取り巻いています。遠心shoulder下の周辺は中程度に膨隆しています。